鉄壁のチャーリー・パーカー・クインテットのライブ録音。バードのバンドの'48年当時の日常です。わたしの大好きな音源です。
こういう演奏を聴くと、たとえDialやSavoyであっても、スタジオ録音の音源を聴いただけではビ・バップのオイシイところを完全に味わうことはできないんだろうなぁ、と思ってしまいます。
まとまりあるフレーズを凝縮して吹きこまなければならない、3分間芸術ようなSPレコード録音での彼らの姿とは違って、当時の日常のライブでのパーカーのバンドはフレーズのまとまりを多少無視してでもその場瞬間、瞬間の音楽的衝撃ひいては身体的衝撃を優先しています。「This Time the Dream's on Me」でのテーマのフレーズをひたすら弄ぶようなパーカーのソロ、「Chasin' the Bird」での音が割れるほどのいきなりの高音、「Shaw 'Nuff」「The Way You Look Tonight」での空中分解しそうなほどの超アップテンポ、「My Old Flame ( I )」でのすっとんきょうなエンディング、身体のシビれる瞬間さえ生まれれば、あとはどうでもいいといわんばかりのラフさです。スタジオ録音だったらすぐさまNGにされそうなラフさです。
アップテンポの曲では、ソロが聞こえて来ずにランニングベースのむなしく響く個所がいくつもあります。出だしを間違えたのか、ネタにつまったのか、あるいはただ間をあけただけなのか・・・、でもその空白の瞬間がかえってスリルを感じさせてもくれます。
こうした、瞬間至上の場当たり的なラフな演奏から一番に感じ取れるものは、メロディーがきれいだとか美しいハーモニーだとかいうもの以前の、身体にダイレクトに感じる緊張感と音の衝撃、音楽の生々しさではないかとおもいます。そしてそれこそがビ・バップの(というよりわたしにとってはジャズそのものの)醍醐味のような気がします。
そんな醍醐味を味わえる演奏、パーカーのバンド以外では誰がやれるのか、という気もしますが・・・。
まあこうして書いてはきたけど、つい3、4ヶ月前のThe Three Deucesでの同メンバーの演奏は割とまとまりのある演奏をしているんですよね。
2000. 1.30 よういち
ここ一ヶ月の間、またこの日の音源ばかりを聴きつづけてきたのですが、やっぱりこの音源はいいですね。
「ビ・バップとは何か」と聞かれたらすかさずこの音源を取り出しますね。わたしのイメージしているビ・バップにもっとも近い演奏です。ジャズを初めて聴く人には非常に不親切なセレクトだとは思いますが・・・。
でも「Chasin' the Bird」のテーマメロディーひとつとってみても、Savoyのスタジオ音源だけ聴いていたらこんな胸の熱くなる曲だとは思いもつかないでしょう。じっくり聴かせるSavoyの方も良いのですが、ずんずん自分のほうにせまってくるような迫力のあるこちらのライブの演奏のほうがずっと曲自体の魅力をも引き出しているように思います。
そんでもって、この音源での聴きどころのひとつに、「音の見通しが良くなる瞬間」というのがあるとおもいます。「音の見通しが良くなる瞬間」というのは、実際の生のライブでもうまい人同士が演奏しているときに、特にアップテンポの演奏中心にやっている時に、観客側から見てごくたま~に感じとれる状態です。
例えば、ファーストセットの演奏ではお互いの楽器の音がいくぶんばらばらに聞こえてきたものが、セカンドセット、サードセットと経過すると共に、お互いの演奏が一つの流れに溶け合ってくる、リズムセクションの鳴らす装飾音(オカズ)も少なくなってくるように感じられる、仮に鳴らされたとしてもまったくその場から浮かない状態で自然に聴こえてくる、もしくは自然すぎて意識されない、観客としてライブを聴いているとそんな状態になることがあります。
お互いの音が同じ大きなベクトルに向かうようになるとでも言うのか、Grooveしているということばを使っていいのか、とにかくひとつの大きな緊張感のある空気の流れが感じられるように聴こえてきます。
ものに例えて言えば、カレーライスのルーを作る時に、隠し味にいれた醤油やらトマトやらりんごやらが、作りたてのときは個々の風味がバラバラに舌で感じとれていたのが、日が経つにつれそのカレールー自体のマイルドな風味としてひとつに溶け合ってくる、といった感じです。
そのような状態になるとリズムセクションの音はまったく目立ってこなくなり、シンバルレガートやランニングベースの音は空気の流れの一種の波長を示しているかのように感じられてきます。そしてフロントセクションの音が際立ってきて、フロント楽器がその空気の流れに乗るかどうか、その点に耳がいくようになります。
フロント楽器が空気の流れに乗ればその流れはより大きいものになり、フロント楽器が手を休めたり、すっとんきょうな音をだしたりして空気の流れに逆らうようなことをすれば、それはそれで大きな刺激を生むようになりましょう(本人のセンスしだいですけど)。
リズムセクションが大きな空気の流れをつくりだし、フロントセクションがその空気を背後にして際立った演奏をする。そういうサウンドの整理された瞬間が「音の見通しが良くなる瞬間」といえると思います。
話がながくなりましたが、このパーカークインテットの音源では、そういった「音の見通しが良くなる瞬間」が特に超アップテンポの演奏で、たとえばワタシの大好きな「The Way You Look Tonight」そして「Shaw 'Nuff」「Little Willie Leaps」などで感じられます。これらの演奏ではどれも一定の緊張感のある空気の流れが感じられます。実際のサウンドとしてはマックローチは終始ブラシワークに専念し、トミーポッターのランニングベースの音が一定の波長をきざんでいるかのように淡々と響いており、そのなかでパーカーとマイルスがそれぞれの存在感をみせつけるムチャな演奏をしています。
前回の紹介文でも述べたようにフロントが楽器を吹かずにランニングベースがむなしく響いてくる場面でも、それはそれで大きな緊張感をもったサウンドの一部として感じられます。
こういう空気の流れをたやすく生みだすことが出来てしまうと言う点で、わたしは前回このメンバーのクインテットを「鉄壁のチャーリー・パーカー・クインテット」と表現しました。
いや~ホント最高です。これがビ・バップです。もう言い切っちゃいます。
ところでパーカーも最高なのですが、マイルスもこういう空気の流れを乗りこなすことに天性の才能を感じます。だれもが上下に身体を振り回されるようなバップフレーズをくり出すなかで、マイルスは低い段差の階段を上下するような高低差の絶妙な不安定さの感じられるフレーズをくり出すことで、その場の空気の流れををさらに緊張感のある締まったものにして、聴いている者の身体を気持ち良く金縛りにさせてしまいます。この金縛りにさせられるような感覚は当時のだれからも見受けられないものではないでしょうか。
周囲の者も心得たもので「The Way You Look Tonight ( I )」のなかで一番音の見通しが良くなった瞬間、マイルスのソロの一番ノッている部分で、おもわず観客(?)が感極まって「オウー、オーッ!」と唸り声をあげます。実は私個人としてもこの唸り声のあがる瞬間がこの音源全体の一番のハイライトと思っております。
この時期のマイルス、誰にも注目されていないようですが、確かにフレーズはまだまだ稚拙ですが、ビ・バップの歴史の中では下っ端的あつかいですが、ビ・バップのスタイルのなかで独特の気持ちよさを生み出しているという点でビバップ貢献者のひとりに数えてあげてもバチはあたらないのではないかと、そんなことを個人的には思っています(でもこの気持ちよさってモードに通じてくるもののような気もするんですけどね)。
最後に蛇足ながら、これ書き終えて初めて気がついたんですけど、「BIRD
on 52nd Street」の音源はマイルスのソロがまるごとカットされているんですね。
それと「BIRD on 52nd Street」の音源とディーン・ベネデッティの音源とではまるでピッチが違うんですね。どっちが実際に近いんでしょうね・・・。私はなんとなくディーン・ベネデッティの音源の方が近いような気がしていますが。
2002. 1. 3 よういち
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