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ノーマングランツ主催のJazz At The Philharmonic(J.A.T.P)と呼ばれるシリーズのコンサート。大物を駆り出してのジャムセッション的お披露目興行で、普段パーカーがやっていたようなライブとはおのずと空気が違ってきます。 派手なブロウをおりまぜたり、ハイノートをヒットさせたりと、観客を楽しませるように、わかりやすくアピールしようとするミュージシャンの姿勢が、コンサートの空気をいくぶんうわついたものにしているように感じます。真剣にジャズを聴く人にとっては好き嫌いはあるでしょうが、ミュージシャンが観客側に寄り添って楽しませてくれる様はやはりジャズの楽しさのひとつといえるのではないでしょうか。 そんなコンサートの中でも、パーカーが一般の観客にわかりやすくアピールできる気持ちよさ、楽しさのポイントはいくつかあると思います。わざわざ派手なブローに付き合う必要はパーカーにはありません。 とはいえ、パーカーの演奏の全てがこのJ.A.T.Pコンサートで映えるわけでもありません。 ドラッグを探していたためこのコンサートに遅刻してきたパーカーは、ファーストステージ最後の「Sweet Georgia Brown」から割り込んで、ピアノの後に急遽ソロを吹きはじめます。しかしわたしにはいまいちピンとこないソロです。聴いていて気分が高揚してきません。 アップテンポの曲ではありますが、パーカーのソロの疾走感が生きていないように感じません。本来パーカーには楽勝のテンポではありますが、いろいろと吹いてもなぜか会場の空気から浮いてしまって、みんなを置き去りにしてしまうようなシリアスなソロになってしまっています。ソロの内容は悪くはないのですが。 思うに、リズムがパーカーにとっては貧弱すぎるのでは?少なくともかみ合っていないように感じます。 音源上、バックのピアノとベースがよく聞こえてこないので、リズムの頼みの綱はドラムスになるのですが、四つ打ちが地味にモタモタ聞こえてくるのみで、パーカーの演奏をドライブさせてくれません。結果、ソロが何だか内にこもってしまっているような印象で、どうもあまりスピード感を感じさせず盛り上がりにも欠けます。 また、輪郭がのくっきりしすぎたパーカーの収録音質も、会場の空気に馴染まないように感じられて、かえって裏目にでているように思います。 アップテンポでのパーカーのソロの疾走感が聴き手に届かないとなれば、この場でパーカーがアピールできる方法は、ミディアムテンポでじっくりメロディを聴かせるスタイルを取ることだったのでしょう。「Oh, Lady Be Good」で結果的に”J.A.T.P史上の名ソロ”と呼ばれるソロを取ることになります。ここでのパーカーは疾走感と刹那的燃焼を見せるパーカーとは別の側面、メロディメーカーとしてのパーカーの本領を発揮しています。 ソロの初っ端だけテーマのフレーズを一吹きして以降は、本来の曲想を壊さずにブルースフィーリングを色濃くさせて、それでいてまったく新しいメロディを美しい構成で聴かせてくれます。その様子はまるでこの曲のストーリーの続きをその場で創り出してしまったかのようです。 ひとしきり吹ききって、フロント陣がパーカーの後ろでリフを付ける頃になると、パーカーは封印を解いたかのようにダブルタイムのフレーズを吹きたいだけ吹きまくりますが、いままで吹き連ねてきたソロの曲想をちゃんと保っています。 このソロのあまりの素晴らしさに誰もソロを受け継ぐことが出来なくなったそうで、唐突にベースソロに入ることになります(結局このあとは周りのミュージシャンに押し出されるようにしてレスターがソロを引き受けることになりますね)。 ちなみに「Blues for Norman」では、パーカーのソロの番が来てもサックスを咥えたまま吹かずに突っ立っていたので、ピアノがあわてて変わりにソロを取ることになったそうです。 コンサートに遅刻してきて途中で割り込んでソロを取るわ、素晴らしい演奏をすればしたで誰も後を吹くことができなくなってしまうわ、出演している大物ミュージシャンを大いに戸惑わせていますね。やっぱりパーカーは愛すべき問題児ですな。
2003.9.18 よういち
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