Bird 50!
「Bird 50!」開催時のチケットです

Bird 50! ~チャーリー・パーカー没後50年の夕べ~
 レポート 第二部




20:40 沢田一範ウィズ・ストリングス

ステージ左側にアルトサックスの沢田一範氏とピアノ・ベース・ドラムスのリズムセクション、ステージ右側には管弦楽器奏者がずらりとならびました。バイオリン3名、ヴィオラ1名、チェロ1名、オーボエ1名。沢田氏が出だしの指揮で腕を振り上げると会場がにわかに静まり返ります。そして「Just Friends」のオープニングのストリングスが響き渡り、沢田氏がパーカーのイントロそのままに吹き上げます。

沢田氏は長髪にひげを蓄え求道者然とした風貌。そのイメージもあるせいか、アルトから広がる音は太く豊かでありながらも、無心にパーカーに仕えているかのように澄んで聴こえてきます。リズムセクションも影ながら実に締まった演奏です。

「April in Paris」「East of the Sun」「Easy to Love」・・・、耳になじみの「パーカー・ウィズ・ストリングス」のレパートリーが、周囲の空気を一変する音の広がり方で奏でられます。ストリングスやオーボエを加えたフォーマットの生演奏を聴くのは私は初めてなのですが、躍動的なアルトと溶け合いながら、想像以上の豊潤さで会場中に響き渡りました。ジャズクラブでめったに耳にできないサウンドではないでしょうか。体内の未開拓の領域に音が踏み込んでくるような感覚に私はとらわれました。CDやレコードで「ウィズ・ストリングス」を楽しんでいるときには体験できなかった感覚です。

最後は、ストリングス奏でるシェーンベルグの「浄夜」の演奏を受けて、ストリングス付きの「Parker's Mood」。上質なドレスを裸体にまとうことで、かえって肉体のラインが美しく引き立つような、そんな凄艶さを感じます。

沢田一範ウィズ・ストリングス
会場は潤いのある音に満ち溢れていました
Bird50 JamSession

演奏に心奪われながらも、私は少し考え込んでしまいました。
こうしたストリングス編成を切望していたパーカーにとって、当時どんな音楽が彼の頭の中では響いていたのだろう。このサウンドがまさしく彼の本当に望んでいたサウンドなのか、それとももっと違う音が頭の中では鳴っていたのか?
少なくとも1940年代末期以降は、黒人アンダーグラウンド音楽ビ・バップの範疇を超えたサウンドがパーカーの頭の中では鳴り響いていたのではないか、彼の思いはジャムセッションの繰り広げられるヤニくさいジャズクラブ界隈を超えていた、ということは言えそうな気がします。生きている間にそれを充分に表現しつくすことは出来なかったかもしれませんが。

それにしてもホントめちゃめちゃ贅沢なサウンドです。演奏者を揃えるだけでも大変でしょうに、日本チャーリー・パーカー協会は、なけなしのカンパを追加投資して、当日リハーサルのために近くのスタジオを借りたと聞きます。こうした入念な準備のもとに成り立っているサウンドなのですね。パーカーが頻繁にストリングス付きのライブを続けていたなんて信じられませんね。


21:30 著名アルトサックス奏者による演奏

沢田一範 ウィズ・ストリングスの演奏が終わり、「Bird 50!」に賛同いただいた著名なプロ・アルトサックス奏者が次々と演奏を繰り広げました。

最初は、パーカーに大きく尊敬を寄せる大山日出男氏、「Anthropology」を超高速で吹きまくる!ものすごいスピード感で、会場中が艶のある朗々としたアルトの音で埋め尽くされましたよ。瞬間的にキーをずらしたフレーズを吹いたり、オクラホマ・ミキサー等の様々な引用フレーズを取り入れたりと、パーカーの十八番のワザを惜しげも無く盛り込んで、大きな歓声を沸かせます。そして一転、バラッドの「Embraceable You」では艶のある音色を引き立たせてじっくりと聴かせてくれました。

次は、高校を卒業したばかりの18歳、矢野沙織さんです。オレンジ地に黒のまだら混じりのシャツ、頭に大きなターバンを巻いて、ミントグリーンの腕輪をつけたファッショナブルな出で立ちで「Barbados」「Moose the Mooche」を演奏します。渇いた若者特有の鋭い眼光で、真剣に堂々と直立して吹きあげるその佇まいが頼もしい。力強く鳴らされるアルトの音色からは、単なるパーカーフォロアーを超える、自身のこれからのサウンドを期待させます。

そして、熊本泰浩氏がコンガ奏者のぽっぽ渋谷氏を従えてラテンナンバーを演奏します。ポコポコとコンガが心地よく響くなか、熊本氏は「Estrellita」を南国の海岸にそよ吹く風のようなアルトで歌い上げ、今までの熱演で会場を立ち込めていた熱気をやさしく払ってくれました。ところが「Tico Tico」では一転、疾風のような吹きっぷり。リズムセクションの演奏が地熱のようにじわじわと熱くなり、コンガの音も地の底から沸き立つように激しく響きます。聴いているこちらも気分が高揚してきます。

最後に大山氏、矢野さん、熊本氏に、沢田氏と増田さんを加えたアルトサックス奏者5名による「Confirmation」。さまざまな個性をもったアルトサックスの達人達が、心を一つに、パーカーに捧げものをするかのように吹きまくる様子は感動的です。
熊本氏はラテン風の演奏を上回るパーカーっぷり、大山氏が吹きまくり観客をのせる、のせる!そんな演奏をステージ上の矢野さんは横目で、何でも吸収しようという面持ちで見つめています。
そんな姿が印象的でした。

22:30 ジャム・セッション

プロのアルト奏者の演奏を引き継いで、最後はアマチュア・ミュージシャンによるジャムセッションです。バードの殉教者たち、バードの子供たち、これから翼を広げて羽ばたこうとする者が集まり、自分の力をめいっぱい披露します。最後は「Now's the Time」の大合唱で「Bird 50!」は幕を閉じました。

23:00 「Bird 50!」 終了

5時間どっぷりパーカー漬けでおなかいっぱい、胸いっぱい。彼の魅力を大人数で分かち合えた非常に貴重な、非常に濃い一夜でありました。

辻会長がいみじくも「今夜の演奏はパーカーのフルコース」とおっしゃっていましたが、ウィズ・ストリングス、ストレートなビ・バップ、そしてラテン風と、本当にカラフルな音楽で楽しませてくれました。そのカラフルさがパーカーの足跡を辿っての帰結だということが少々意外に思われるかもしれません。パーカーと言えばビ・バップを極限まで完成させ、モダン・ジャズの語法を確立した、ビ・バップの頂点の人物という固定されたイメージがあります。

しかし実際は、本人が切望したものも意に染まないものもあったでしょうが、ビ・バップの範疇を超えたフォーマットでの演奏も数多く、また、自らが完成させたビ・バップの気持ち良さの範疇とは別の感覚も、1950年代に入ってからのパーカーは生み出しつつあったように私は思います。その片鱗をこの夜会場に居た人は味わうことができたのではないでしょうか。

絶頂期を通り越してしまったといわれる1950年代のパーカーの演奏をよくよく聴き返してみると、通常のカルテット、クインテット編成の演奏であっても、1940年代の演奏にはなかった新しい感覚をほのかに感じることがあります。それはカンサス・シティーを飛び出したパーカーがニューヨークで過ごすなかで芽生え始めたものだとおもうのですが、存命中に結実したとは言いがたいです。沢田一範ウィズ・ストリングスに感動しながらも、同時にそんなパーカーの無念さを想像してしまい、私はちょっぴり胸が痛みました。

パーカーの評価は充分にされているとは私には思えません。ビ・バップの大将、ジャズの語法の創出者、そのような範疇とは別のところでまだまだ語るべきものがあるような気がします。今の私にそれをうまく説明することは、まだ残念ながらできないのですが。この「Bird 50!」に参加して、パーカーをもっと聴いてやろう、彼の伝えたかった感覚をもっと探り出そう、と意気込みを新たにしました。

「Bird 50!」のスタッフの皆さん、演奏者・講演者の皆さん、素晴らしいイベントをありがとうございました。今度はお客として来た我々一人一人が、パーカーを後世に伝えていけたら素敵なことですね!







2005. 3.30 よういち



Photos in this page is from "The Charlie Parker Society of Japan"
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