パーカーの居たニューヨーク2010年 その1 2010年8月28日(土)から9月3日(土)まで再びニューヨークへ行ってきました。トンプキンス・スクエア公園の『チャーリー・パーカー・ジャズフェスティバル 2010』をはじめ、ニューヨーク・マンハッタンのジャズミュージシャンのライブをいろいろ観てまわりましたので、そのレポートを掲載いたします。 ■チャーリー・パーカー誕生日の朝 Sun, August 29 10:00 ニューヨーク到着翌日のホテルの朝。何の気なしにベットのそばのラジオをつけてみたら、聞こえて来たのはストリングスと共演したチャーリー・パーカーの演奏でびっくりしました。フィル・シャープ氏のナビゲーションでパーカーの音楽を紹介し続けているWKCR局のFMラジオ番組『バード・フライト』がたまたまかかったのでした。今日8月29日はチャーリー・パーカーの誕生日ということで、「April in Paris」「If I Should Lose you」「I'll Remember April」などなど、徹底して『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』の音源を流していました。マスターテイクだけでなく別テイクまで連続して紹介するマニアックぶり。 さらに驚いたのが、iHomeという何の変哲もないクロックラジオから流れるパーカーのアルトサックスの音の良さです。チェルシー地区に建つホテルの一室のすみずみまで行きわたる、太く豊かで、そして聴いたことのない優雅さを湛えた音。何なのでしょう? ニューヨークの空気と日本の空気とではパーカーの音の浸透のしかたが違うのでは? だとしたら、ここで暮らしているとパーカーに対する印象がまた違ったものになるのでは? そんなことまで考えてしまいました。まあ、雰囲気に酔っていただけなのかもしれませんね。 それにしても、この優雅な音の流れる中で飲むコーヒーが実にうまい! 飲み終わったら『チャーリー・パーカー・ジャズフェスティバル 2010』へ出かけます。 ■Charlie Parker Jazz Festival 2010 (at Tompkins Square Park) Sun, August 29 15:00-19:00 トンプキンス・スクエア公園はマンハッタンのイーストヴィレッジ地区に位置する、チャーリー・パーカーが1950年代にチャン夫人や子供達と住んでいたアパートに隣接する公園です。地下鉄の駅を降りて公園まで歩いていく道のりは、雑多な商店と住宅が並ぶ、マンハッタンのなかではわりと庶民的な地域のようです。ガラクタにも見えるフリーマーケットの商品が道端に陳列されていて雑然とした雰囲気。そして雲ひとつない快晴で、とても暑い! 先週までは少し涼しかったそうなのですが、これでは猛暑の東京と比べても変わりなく、湿度がないだけ照りつける日光は東京より痛いくらい。 フェスティバル開演までにはまだ2時間ほどあるのですが、公園の入り口付近に来ると沈んだ蒼い音色のピアノが聞こえてきました。ベンチでのんびりくつろいだり、飼い犬をドッグランの中で遊ばせたり、遊具に興じる子供がいたりと、人々が思い思いにすごしている公園の一角にステージがあり、ヴィジェイ・アイヤーのピアノトリオがリハーサルの演奏をしていました。幾分か暑さを冷ましてくれそうなそのダークな音色が、公園のなにげない日常に鳴り響くこの光景。今回の旅行の印象的な瞬間のひとつでした。 開演までの間に、妻に連れられて公園に隣接する「7A」というカフェでエッグベネディクトを食べて腹ごしらえ。1時間ほどして戻ってくると会場の椅子はだいぶ埋まっていました。近隣に住んでいそうな黒人・ヒスパニック系のおじちゃん、おばちゃんのグループが多くを占めていてなごやかな雰囲気。いよいよ開演です。 15:00 Catherine Russell Catherine Russell(voc), Matt Munisteri(g/banjo), Mark Shane(p), Lee Hudson(b), Marion Felder(ds) キャサリン・ラッセルが明瞭かつ豊かな声で、数々のソウルフルな曲を歌い上げます。歌唱に会場の人たちが反応し、踊りだすおばちゃんも。その曲はソウルフルながらもいくぶん素朴で、私の知らないものばかりでしたが、隣席に座る黒人のおばちゃんがかすかに口ずさんでいるのをみて、アメリカの人たちの身近に根付いている音楽の姿をみたように思います。 キャサリンが「暑いわねー」とステージ上でうちわを仰いでいます。確かに暑い。直射日光が私たちの座席へ降り注ぎ、ギブアップ。立ち見になりますが会場の後方に退避しました。 16:00 The Cookers Billy Harper(ts), Eddie Henderson(tp), David Weiss(tp), Craig Handy(as), George Cables(p), Cecil Mcbee(b), Billy Hart(ds) Sun, August 29, 2010 16:00 そして聞こえてきた、暑い日に熱い、モード系ハードバップ。フロント4管の分厚いサウンドを、ビリー・ハートのメリハリのある迫力ドラムが下支えします。ビリー・ハーパー、デヴィッド・ワイスはじめ、全員が突撃系のソロを見せて、男くささ満点でした。 17:00 Vijay Iyer trio Vijay Iyer(p), Stephan Crump(b), Marcus Gilmore(ds) Sun, August 29, 2010 17:00 やっぱりもうちょっと近くで見てみたいと、日陰になったステージ中央に移動して、通路に座っての鑑賞。 リハーサルでも印象に残ったインド系アメリカ人ピアニスト、ヴィジェイ・アイヤーのピアノの沈んだ冷涼な音で会場が蒼く染まります。徹底した変拍子のリズムがじわじわと変遷していき長編スペクタクル小説のストーリーようなうねりを見せていきます。個人的にはマーカス・ギルモアのドラムにも注目していましたが、叩く姿は背筋を伸ばして無駄のないアクションで、いってみればごくフツー。だけどそこから聞こえてくるリズムは実に異常です。 途中で「ハッピー・バースデー、チャーリー・パーカー」とヴィジェイのスマートなMC。はじめて知りましたが、パーカーの誕生日はマイケル・ジャクソンの誕生日でもあるそうです。モザイク状に切り張りしたような「Human Nature」も演奏していました。 このあとはジミー・スコットのグループがステージの最後を飾るのですが、残念ながら後の予定がせまっており、公園を去らなければなりません。 ステージから少し離れた公園の片隅では子供達が遊具に興じ、周辺はフリーマーケットで賑わい、生活感ただよう風景。そこへかすかに届く、純パーカー派アルトサックスの音とジミーらしきボーカルの声。日本ではどうしても構えて聴いてしまいがちな、チャーリー・パーカーの音楽も、実はひょっとしてこんな風にニューヨークの日常に違和感なく溶け込んでいた音楽なのかな、なんてことを思いました。 その2へ続く 2010. 9.30 よういち
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